スーパーグローバルハイスクール

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3月17日(金)
 8:00寮の玄関で点呼及び体調確認。晴れ女は誰かと尋ねると、Mが自ら名乗りをあげる。あっけらかんとした朗らさで、今回の旅を明るくしてくれるムードメーカーであり、さもありなん。

 本日は聖パトリック・デイで、皆必ず緑色のものを身に付けて祝福することになっている。Nの緑は微妙にドレスコードを逸脱している気がするが、やむなし。

 カフェテリアで朝食を採っている最中、OとNが合流。体調不良は特にはないとのこと。その後インターナショナル・クラスを受講。

 2コマ目と3コマ目の間に、パインメナーの先生方や他の生徒達と、小さなパーティを催す。アイルランド移民の多い東海岸の地域は、聖パトリックがアイルランドにキリスト教を伝えたことを記念するこの日を盛大に祝福する。国旗にちなんだ緑とオレンジのお菓子を頬張りながら、お互いの衣装を誉めあった。楽しい時間。

 Nが、ベスト・オブ・聖パトリック・デイにノミネートされたが、惜しくも落選。優勝に輝いたのは、美しい深緑のチャイナ・ドレスに身を包んだ、中国人女性だった。

 本日の午後はブルックライン・ハイスクールを訪問し、Yのプレゼンテーションの内容 “To Help Developing Countries through Educational Support” を題材にディスカッションを行う。昨日同様3コマ目の授業を早退きし、12:05にはカフェテリアで昼食を取る。

 12:45シャトルバスでチェスナット・ヒルズ駅へ向かい、グリーンラインDでブルックライン・ヒルズ駅へ。

 ブルックライン・ハイスクールは赤レンガを基調にした美しい建物で、教室もほとんどが講義形式ではなくディスカッションに適した机の配置となっている。

 外国語として日本語を選択している生徒達の教室へと向かった。

 プログラムはYの問題提起、全体でのディスカッション、最後にいくつかのグループに別れて文化交流を行う予定。

 Yは発展途上国の識字率と経済成長を支援するために、国際基金を基にして新しい国際教育機関を立ち上げることを提案した。その機関は各国に依存せず、自らが教員を雇い、教員を派遣し、人事を司り、現地の学校を運営することで、各国の国内事情に左右されずに安定的に教育を提供できる、新しい仕組みである。

 アメリカの高校生達からは、特に児童労働の問題に基づいた質問や意見が出された。つまり、そのような学校を発展途上国に設立しても、親はそもそも貴重な労働力としての子供達を学校には通わせないのではないか、というものである。Yは英語による難しい議論のやりとりに戸惑いながらも、適切に相手の発言の内容を要約確認し、自分なりの回答を誠実に行った。

 アメリカの高校生達からは、現地の親が子どもを学校に通わせるのを促すために、昼食を提供したり、子どもを通わせる親には報酬金を支払ったり、子どもの学校での学習達成度が高い場合はその報奨金を増額することといった、具体的建設的な意見が出された。Yの研究の実現可能性や実効可能性を高めるのに非常に有用な助言である。

 議論は教育水準を高めたところで、その国に高い学位にふさわしい雇用が十分あるのか、という話題に展開した。日本もアメリカも、特に人文科学系の修士以上の就職難が問題になっている事実が知識として共有され、解決策についての話し合いがなされた。

 Uが、経済発展が進めば自ずと新しい雇用が創出されると発言し、予定されていた時間を迎えた。

 日本とアメリカ、共に先進国に生まれ育った我々が、地球市民として発展途上国の問題にどう関わり貢献していけるか、熱い議論が交わされ、予定していた文化交流まで辿り着くことなく終わってしまった。しかし我々も、アメリカの高校生達も、難しい論題について真摯に語り合ったことをとても誇らしく感じたのか、授業後にお互いに讃えあう姿が印象的だった。

 UとYが、このディスカッションの中で非常に重要な点に気付いたようだ。アメリカ人高校生達の発想の元にあるのが、資本主義に基づくあくなき発展の追求であり、Yが理想としているのが過度な成長を是としない持続可能な社会の形成、普及である点である。

 今回の旅の一大テーマである持続可能な社会の追求が、新しい高度な概念であり、またその概念を議論する際の前提条件として共有していないことに起因して、議論がうまく噛み合わなかった点もあったため、ディスカッションはブレイン・ストーミングに終始したことを二人に伝えた。

 その後、同じくグリーンラインDでロングウッドへ移動し、ハーバード大学医学部や付属病院が集中する地区のフィールド・ワークを行った。元々は他の学部同様、ボストン市北西部のケンブリッジにあったものが、敷地面積の拡大に伴って、医学部のみ西南部に移転したものである。

 患者の精神面に配慮した院内の作りなど、世界最先端の施設からは学ぶものが多かった。

 17:00地下鉄とシャトルバスを乗り継いで帰寮。

 地下鉄の中では聖パトリック・デイに合わせて緑色のスカーフを首に巻いた老齢の女性と仲良くなり、Nがそのスカーフをプレゼントされるという楽しいイベントもあった。

 夕食後、20:00からMの発音矯正と英会話練習を一時間実施。

 その後SとOの英会話練習をそれぞれ行った。Oにとっても本日のディスカッションが印象深かったようで、練習後、23:00まで日本語で徒然に語らった。

 もう寝ようと席を立つと、Uがディスカッションの形式について質問があると言う。共に今日一日を省みることになった。気付くと深夜1:00。

 生徒達の知的好奇心を大いに刺激する、素晴らしい一日であった。
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