スーパーグローバルハイスクール

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3月16日(木)
 外に出かける予定がある日は、天気に恵まれる。誰が晴れ男か、晴れ女か。

 8:00寮の玄関で点呼及び体調確認。体調不良者はなし。
 その後カフェテリアで朝食を採り、インターナショナル・クラスを受講。

 パム女史の教えを実践すべく、クラスメイトに積極的に話しかけるように促すと、業間はいつもイヤフォンをして独りの世界に閉じこもるロシア人男子のツンドラのような心を、生徒Nが融解。末永い付き合いになることを祈る。

 本日の午後は市街地に赴き、ボストン大学でプレゼンテーション及び講義を受けることになっているため、3コマ目の授業を早退きし、12:05にはカフェテリアで昼食を取った。

 12:45にチェスナット・ヒルズ駅へのシャトルバスを特別に準備してもらい、駅へと向かう。

 グリーンラインDでケンモアまで行き、同じくグリーンラインBに乗り換え、ボストン大学西駅で降車。ボストン大学は私立のマンモス校で、市内を流れるチャールズ川沿いの一等地をどんどん買い取り、敷地を東西に向かって拡大し続けている。地下鉄グリーンラインBには、ボストン大学東、中央、西と三つも構内に駅があり、学生の通学における中心的な足となっている。

 14:00数々のメガプロジェクトを責任者として実現させてきた、ボストン大学法学スクール教授、ヴァージニア・グレイマン女史を訪問。女史は老齢ながら、真摯に耳を傾ける姿勢と溌剌とした語りっぷりに、世界の第一線で活躍する女性のパワーを感じた。

 ここでは生徒Tが “Towards Environmental-Friendly ILC” と称して、ILC建設と環境の関係を、イヌワシの生態への影響を指標として分析し、かつトンネル建設に伴って堀出されることが予想される花崗岩の再利用についてのアイディアを発表した。

 パム女史から学んだ技術を無駄にしないよう、グレイマン女史に余すところなく理解してもらうべく、一つひとつの言葉を丁寧に伝える生徒Tの姿に、少々感動。

 女史は過分な賞賛の言葉とともに、より現実的な提言にできるよう助言をくれた。ILC建設とイヌワシの生態の関係を論じるには、データが不足していること、トンネル掘削で生まれる瓦礫の再利用の仕方を、もっと詳細に述べることが必要とのこと。

また、生徒Uも “Building Smart, Academic City, Morioka” と題して、日本国内の大学の偏在を解消し、地方都市に大学を誘致することで地方活性化を促進すべきだと提言した。

 負けじと、生徒Uも懸命にグレイマン女史にプレゼンテーションを行なった。女史の目をじっと見据え、自説を淡々としかし説得力をもって展開する姿は立派であった。

 女史も助言に力が入り、誘致によって大学側が得られる、盛岡ならではの利益を明示すること、マサチューセッツ州に盛岡と同規模で、学術都市としての機能が市政の中核となっている都市があり、その街の数値的な情報を軸として、盛岡に大学を誘致した際に起こる変化を説得力ある形で見積もることが重要であると助言をくれた。
          
 クライアントのみならず、ステイク・ホルダーと呼ばれる利害関係者全てに配慮しなければならないメガプロジェクトを数多く手がけてきた女史による的確な指摘は、今後彼らの研究を進化発展させていくのに不可欠なものとなった。

 その後 “Building Sustainable Megaproject and Smart Cities Around the Globe” と題して、これまで女史がメガプロジェクトに携わる中で培ってきたノウハウや、現在取り組んでいる壮大な計画に関する講義を受けた。今彼女は多くの国を跨ぐシルクロードの全面的な改装 (the Modern Silk-Road) と、海運のシルクロードの開拓 (the Maritime Silk-Road) という計画を主導している。非常にロマンティックな仕事でグローバルに活躍する女史に、憧憬の眼差しが注がれた。

 女史は講義の中で、ボストンの高速道路の渋滞を解消するため、ボストン中心部に巨大なトンネルを掘ってバイパスを建造し、掘出された瓦礫を用いて埋め立て島を建設した経験を一例として挙げた。生徒Gがその点に関して「トンネル掘削自体と、埋め立て島はボストンの海洋環境に影響を与えたのか」という質問を投げかけた。生徒Tの研究を深める材料となり得る、重要な質問である。

 生徒Uからは「たくさんの国が関わるメガプロジェクトの場合、利益の分配はどうなるのか」という的を射た質問がなされた。現在は人口比に応じて各国に利益を分配するのが最も「公平」と考えられているとのこと。しかしこの「公平」が最善なものであるかどうかは、議論の余地があろう。国際関係学、国際政治学、国際法学など多分野に跨る学際領域となる大テーマを、今回の研究と女史との出会いによって身近に感じられるようになったことは、「法学」「政治学」を志そうと考える彼にとって、実に素晴らしいこと。

 女史に別れを告げ、ボストン大学構内の一部を散策した。

 生協のある会館に赴くと、演劇サークルと思われる一団が、パフォーマンスの練習をしている。他の学生達もにやにやしながら見物している。生徒達が買い物をしていると、一団の数名が近寄ってきた。 “My origin is pepper soup!” と意味不明な科白を叫びながら、奇怪な動きを見せる。生徒Mも気付くと一緒に叫んでいる。即興劇の世界に思わず巻き込まれ、不思議な高揚感に浸った。

 明るく外向的な学生が多いようで、ボストン大学の持つケイオティックな勢いに触れられた、良い経験だった。

 最後はキング牧師が学位を取得した神学部棟の前で写真撮影。

 帰りはちょうど17:00となり、帰宅ラッシュと重なった。ボストンの地下鉄も乗車率200%を超え、広大なアメリカの地でも満員電車に乗る羽目にあった。しかしこれもまた良い経験。
 




グレイマン女史と記念撮影
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